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◆スオミ・ピアノ・スクール ~監修者、ピアニスト舘野泉氏を迎えて~

 

過日4月20日(金)に、表参道カワイのコンサートサロンパウゼで、テキストの監修者で国際的なピアニスト舘野泉先生をお迎えし「スオミ・ピアノ・スクール」のセミナーが開催されました。コロナ禍がまだ完全には収束に到っておらず、はじめて後日の動画配信も試みましたところ、遠方の方の申込もあり、当日受講と合わせて、100名を超える参加者になりました。

 

 前半は、『スオミ』の訳・編者の久保春代先生と、ステーション代表で1993年から30年近く「スオミ・ピアノ・スクール研究会」を主宰する浜本多都子先生、お2人交代で、テキストにそってお話されました。久保先生はフィンランドに留学されたご経験があり、浜本先生はフィンランドにて『スオミ』の原著者のレッスンを聴講されています。

 

 「スオミ・ピアノ・スクール」(以下『スオミ』)  が生まれたフィンランドは、年間を通して日照時間が短く、冬がとても長くマイナス20〜30度にもなる厳しい寒さで、このような風土から、自然に対し皆で協力しすぐには結果を求めず長い目で先を考える、本質的根本的な教育がなされている、教育先進国であるとのこと。『スオミ』は、ひとりひとりの子どもの心を大切に、結果を急がずにじっくりと音楽の世界に導いて行きます。この本を見つけて日本にご紹介下さった、本日の特別ゲストの舘野先生は「初めてこの本を見た時に、こんな教え方もあるんだ…と、新鮮な驚きでした。」とおっしゃいます。

 

 1冊目のテキスト『音楽への旅立ち』はいちばん大切で、始め25ページほどは楽譜、読譜なしで進みます。絵を見て先生とお話したり、体を動かしながら歌を歌ったり、絵のイメージで即興演奏したり、黒鍵だけで先生と連弾したりしながら、ゆっくりピアノに親しみ、それにより先生との信頼関係を築き、知識としての音楽ではなく、音をよく聴き、ピアノの音色に親しみ、感じる心を育てて行きます。

 

  そのあとの第1巻、第2巻にも、引き続き、ほかのテキストにはなかなか見られない、より進んだ即興演奏の楽しい課題があり、スオミが大切にしている、自主性や想像力を育みます。また、メソッドの中に、奏法や脱力やテクニックの課題がわかりやすいイラストと説明とともに入っていることは、とても画期的なことだと言えます。初めから美しい音、多彩な音色を求めて行きます。楽曲の時代や形式の幅の広さも特徴的で、初期の段階から子どもに与えるのは芸術性豊かな作品であるべき、曲の雰囲気や気持ちその心を大切に、との考えに基づき、イマジネーション豊かな魅力的な作品ばかり集めています。

 

後半は、ゲストの舘野先生のお話と演奏でした。

 

 子どもの頃は、とてものびのびと自由に楽しくレッスンされていたのに、高2の時に考え過ぎて、指が作り出すと言う感じになってしまい、どこにも伸びて行かない音しか出せず行き詰まり、ピアノが弾けなくなってしまったことがあるとのこと。コハンスキー先生との出会いがあって、ポーンと鳴らすただ一つの和音を美しいと感じ、小さいころ自由に楽しく弾いていた時のように弾けば良いのだと、あらためて気付かされたそうです。

 「音が伸びない」「指が作り出している」と、誰かに指摘されたのではなくて、高校生の時に自らそう感じられた、悩まれた、そしてさらに理想的な美しい音をご自分のものにされ、また自由で楽しく弾けるようになったとのお話に、深く感動しました。

 

舘野先生がピアノに向かい、はじめのフレーズが響いた瞬間、今までの空気が一変し、心地よい緊張感と深くあたたかい音で会場が満たされました。演奏されたのは次の2曲。

 

♪ 光永浩一郎  :  “苦海浄土”より   第3楽章  「海と沈黙」 

♪ 村田  昌己  : 「時のはざま」    

 

演奏を終え、舘野先生は、その日とても大切なことを伝えて下さいました。

 

「音が鳴っている時よりも、静寂が大切。静寂にも耳を傾けて、静かに響いて行く音の美しさを大切にしていただきたい。音楽を包んでいる全体は、大気のような風のような、豊かな大きなもの。身の回りにある音や香りを感じて、まわりにある全てのことを大切に抱えて生きていく。ピアノを弾くことは生きること、人生そのもの。」

 

参考図書:『命の響』 舘野泉  著  (集英社  2015年)

     〜左手のピアニスト、生きる勇気をくれる23の言葉〜 

 

(この本を初めて手にした時、言葉の数々に感動して夢中で読みました。その後何度も読み返している、大切な愛読書です。多くの方におすすめしたい本です。)

2022年8月22日

都築裕子

 

※ 『命の響』は絶版となっていますがネットで手に入れることは可能です。

 

講座終了後は館野先生を囲み、「青山 星のなる木」でお食事会をいたしました。

◆ 『スオミピアノスクール』 ~監修者・舘野泉氏を迎えて~

2019年5月9日㈭、伊藤楽器船橋イトウミュージックシアターにて、ピアニストの舘野泉先生をお迎えし、久保春代先生による「スオミピアノスクール」のセミナーを開催いたしました。カワイ表参道での2月のセミナーに続き2回目となる今回は、舘野先生の奥様マリア様もご参加されセミナーに耳を傾けてくださいました。

まずは久保先生より、スオミの生まれた国フィンランドの自然と人々についてのお話がありました。一年の半分を厳しい冬に閉ざされるフィンランドの人々は謙虚に自然と向き合い、長く暗い冬をどう乗り切っていくか、物事に対して先を見据えた考え方を持っているとのことです。充実した社会保障もその表れで、スオミピアノスクールにも結果を出すことを急がない長い目の教育という考え方が反映されています。

次に久保先生の演奏を交えながらテキストの解説に入りました。
・スオミは子供をまず一人前の人格として扱い、子供の心を大切にしていること。
・子供の感受性、自発性を育むための方法がわかりやすい言葉で示されていること。
・即興演奏や脱力、美しい音、多彩な音色へと導くための奏法、理論、時代ごとの様式などが、入門となる『旅立ち』だけに終わらず1巻2巻へと繰り返し発展しながら何度も現れ、それらが自然と身につくようになっていること。
・短い曲であっても一曲一曲が芸術性の高い豊かな世界を持っていること。久保先生の美しい音色の演奏によりそれが更に理解できました。
・現代曲、現代奏法も積極的に取り入れていること。

また各巻が進むごとに描かれているイラストのキャラクターも『旅立ち』の巻の《うさぎ》、次の1巻では柔軟、敏捷性、注意深さを増した《ねこ》へ、更に2巻では知性を持った人間に近い《さる》へと進化していきます。子どもはイメージの広がる表情豊かなイラストのキャラクターと共に成長している実感も得られるのではないかと思いました。

『このテキストのねらいは可能な限り広い音楽的な素養を与えながら、音楽に対する興味を目覚めさせ続けていくことにある」これはスオミの原著者の言葉です。

 

 


 

そして監修者舘野泉氏は
『音楽を愛し、子どもたちとともに音楽を生きるという初心こそが望ましい』とおっしゃっています。
どちらも指導者として原点に立ち戻らせてくれるお言葉だと思います。
スオミピアノスクールは子どもの指導書でありながら、私達指導者にもその根本的なことに気づかせてくれる素晴らしい教材だと思います。スオミを指導の軸として、私達自身が常に学びながら子供の音楽の世界を広げてあげたいと思いました。

後半は舘野先生と久保先生の対談へと進みました。子供時代の練習についてお尋ねすると、舘野先生の子供時代は草野球や相撲、遊びの時間を楽しみながらも、ピアノの時間になるとごく自然にピアノに向かわれていたそうです。
ご子息バイオリニストのヤンネ舘野氏の子供時代や音楽家への道のりについても話されました。幼いころからバイオリンがお好きだったヤンネ氏は、割りばしをバイオリンに見立て、舘野先生の弾かれるピアノのそばでピアノの曲調に合わせ体を揺らしていたそうです。音楽家としての道を歩み始めたのは早くはなかったそうですが、ヤンネ氏はゆっくり焦らずに基本的なことを諦めず、良いものを身につけて来られたと舘野先生はおっしゃっていました。父親として舘野先生は、絵画や建築にも良いセンスを持つヤンネ氏はいずれ何かをつかむだろうと信じ静かに見守っていらっしゃったそうです。
フィンランドの人々の長いスパンで物事に取り組む姿勢、謙虚さ、我慢強さを垣間見た思いでした。

また脱力についてのお話では、高校生時代のコハンスキー先生と出会いか大きな転機となられ、脱力を身に付けてから縛られていた身体も手も楽になり人生が変わったように感じられたとのことです。スオミでも最初から大切にしている脱力ですが「コハンスキー先生に出会った当時も、スオミが出版された頃にも、まだ脱力という言葉は広く知られていませんでした」と舘野先生もおっしゃっていました。
そして音楽と呼吸の関係については、作曲家間宮芳生氏の左手のための作品『風のしるし』のモティーフとなっている「風の神」にまつわる神話を引用されながらお話くださいました。「風の神が、地上に生きるすべてのものの誕生の時に風を吹き込み、生命を与えてくれる。人はその体内を風が吹いている間だけ生きている」
アメリカ先住民に語り継がれているこの神話になぞらえ、
「呼吸することは命であり、音楽の中の呼吸とは常に意識する大切なことです。ペダルを踏む時、曲の終わりに響きが消えゆく時にも、常に呼吸を感じている。」
とおっしゃいました。音楽の根源に触れる深いお話でした。
そして「ピアノを弾くことは運命的なこと。演奏することが自分の使命である」とおっしゃられた言葉が心に残りました。

最後に舘野先生の演奏でセミナーはしめくくられました。
・月足さおり作曲『雫~しずく~』より「風の彩(いろ)」
・マグヌッソン作曲『アイスランドの風景』より白夜を描写したと言われる
「うららかなひと時、夏至の深夜の煌々と明るい夜に」
・光永浩一郎作曲「サムライ」
心に深く語りかけてくる演奏に会場はしみじみとした感動に包まれました。

セミナー終了後は和食懐石のお店『音波』にて舘野先生、マリア様、久保先生を囲んで和やかにお食事会となりました。     

 

 

 

 

◆ 「スオミ・ピアノ・スクール」 ~監修者・ピアニスト舘野泉氏を迎えて~

 

2019年2月14日(木)、カワイ表参道 コンサートサロン パウゼにて、ピアニストの舘野泉先生をお迎えして久保春代先生による「スオミ・ピアノ・スクール」のセミナーを開催いたしました。

初めに久保春代先生より、「スオミ」の生まれたフィンランドの教育についてのお話がありました。
自然のきびしいフィンランドでは、助け合いの精神や自然に対しての謙虚さ、長い冬を乗り切るためにいつも先のことを考えて生活をする、つまり長い目で物事を見るということが求められます。そのことが教育にも反映されているそうです。

国立音楽大学シベリウスアカデミーの教育システムでは
 学生をひとりの芸術家の卵としてみる
 教え込むのではなく、自ら学ぶのを助ける
➡実践的な勉強の場を設けている(プロのオーケストラを指揮する、実際に子どもを指導する…etc.)
 現代音楽を積極的に取り入れている
 人間工学に基づいた身体の使い方を学ぶ

といった特徴を挙げられました。

これは「スオミ」の
 子どもの心を大切にする
 教材そのものが芸術性豊かな世界をつくっている
 初歩から現代曲、現代奏法を取り入れている。
 身体工学もメソードに取り入れている
(その他、理論、即興、文化、自然など)

という特徴にも重なるものがあります。

この教本が舘野泉先生によって日本に紹介されたのはもう30年ほど前になります。たくさんの新しい教本が毎年生まれていますが、どんなに時代が変わっても立ち戻るべき根本的なことがこの「スオミ」にはおさえられているとのことです。

この後、“音楽への旅立ち”からテキストを1ページずつめくり、演奏を交えながら解説されました。
また巻が進むにつれて、らせん階段のように少しずつむずかしいことを勉強していくようにできている例として、『即興演奏』の課題では“音楽への旅立ち”の「おや、いろいろなおとがきこえますね」、第1巻の「ゆめのくにぐにへ」、第2巻の「犬の夢」を、『現代音楽』では“旅立ち”の「うちゅう」、第1巻の「きり」、第2巻の「薄明り」(12音技法)が取り上げられました。他のテキストには見られない「スオミ」ならではの作品、久保先生の素敵な演奏でその魅力がより伝わってきました。『脱力』についても“旅立ち”P.15、第1巻P.16、第2巻P.18のイラストが描かれたページが紹介されました。「絵があったら通りすぎるわけにはいきませんね。」とおっしゃったように、大切なことが繰り返し身につけられるようになっているようです。


後半はいよいよ舘野先生にご登場いただき、久保先生との対談となりました。
舘野先生がなぜ「スオミ」を日本に紹介しようと思われたのかという久保先生のご質問に「僕は教則本というものを子どもの時にやったことがなくて、つまらないものだと思っていたんですよ(笑) そしたらこのスオミを見ると、子どもと先生が話し合って音楽の道を開いていくようにできている。選択肢が広がる本だと思ったわけです。」とお答えくださいました。
スオミが大切にしている「脱力」については、高校に進まれた頃、もっと弾けなければだめだと思うようになり、身体もガチガチになってしまった時期があったとのこと。運良く高2の時にコハンスキー先生にレッスンを受けられることになり、それまで身体が縛られていたのが魔法がとけるように生き返った感じがして嬉しかったというエピソードをお話し下さいました。
またスポーツ選手の身体の動き、使い方がとても参考になるとおっしゃって、スピードスケートやテニスの大坂選手を例に挙げられました。
「舘野先生の若いピアニストへの演奏のアドバイスがとても素晴らしいのですが?」というお問いかけには、「常に自分の音楽ができるように。 弾いている姿を見ながら、最初の音楽にうまく乗れれば…」ということを考えられているそうです。
「教えようとすると欠点を直そうとするが、良いところを見つけ、共感する」というお言葉は私たち指導者が心に刻んでおきたいものだと思いました。

最後に「サムライ」(光永浩一郎作曲)と「赤とんぼ」(山田耕筰作曲、梶谷修編曲)を演奏して下さいました。心の底までしみわたる素晴らしい演奏に会場は深い感動に包まれ、セミナーが終了いたしました。


受講された皆さんから「感動で涙が出ました。」「遠かったけど無理して来て本当に良かった!」「スオミの本はやはり素晴らしいですね。」と次々にお声をかけていただきました。また「これからスオミを勉強していきたい」という熱いお声も多くいただきました。


終了後、会場すぐ近くの「はるの」で舘野先生、久保先生を囲んでお食事会をいたしました。
その席で何と舘野先生から、先生のご編纂の楽譜のプレゼントがありました。

◆2017年10月6日 スオミ・ピアノ・スクール 宮地楽器セミナー

 北小金井の宮地楽器にて、講師の久保春代先生、途中より特別ゲストとして、監修者でピアニストである舘野泉先生をお迎えし、スオミ・ピアノ・スクールのセミナーが開催されました。

 

 

 

 

2017年2月3日 スオミ・ピアノ・スクール つくばセミナー

     スオミ・ピアノ・スクール Vol.2  ~監修者・ピアニスト舘野先生をつくばに迎えて~

 

スオミピアノスクールセミナーはヤマハミュージックアヴェニューつくばにて講師に久保春代先生、途中より特別ゲストとして舘野泉先生をお迎えして開催されました。

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